十年前の・・・ 後編    written by メラミ様




「ちょっとあんた」
アスカは翌日、昼休みにヒカリとの約束があるので屋上にいる碇に謝りにきていた

「・・・えっと、惣流さんだよね?またなにか用?」
碇は本を閉じて答えた
「・・・昨日は悪かったわね、答え教えてもらっておきながら叩いたりして・・・」
「いいよ、こっちがいきなりファーストネームで呼んだのが悪かったんだし。それより答えあってた?」
何か怒る様子もなく静かに、まるでヒカリのように碇は話した
「答えはあってたわよ」
「そう、ならいいや」
碇は再び本を読み始めようとしたが、
「ちょっと、まだ話があるんだけど。勝手に終わらせないで」
またアスカは碇を引きとめた
「・・・何?惣流さん」
「あんた、数学オリンピックに出場しているんだってね」
「実際には出場したことがないんだ、前回も本選落ち」
「ふーん・・・実はね、あたしのパパは学生の頃、ドイツで数学オリンピックに出場してたんだ。だから少しあんたに興味があってね」
「へぇ、ハインツさんが・・・知らなかったや」
碇が答えた瞬間だった
「何でよ」
「何が?」
「だ・か・ら、何であんたがあたしのパパの名前を知ってるの!?」
「え、あ、いや・・・えっと・・・それは・・・」
碇が弱ったのを見ると何か隠しているなとアスカは思った、が、
「ま、前に数オリで銀メダルを取った人で、ドイツ人なのに名前が"惣流"って言う人がいたから・・・印象に残ってて・・・」
碇の必死の弁明に、確かにその可能性もあるかも・・・とアスカは思った
・・・だが実は、数学オリンピックとは高校2年生以下しか出場ができず、つまりその頃アスカの父はまだ名前が惣流ではなかったのだが・・・
「・・・でもパパが取ったのは銀じゃなくて金だけど」
「あ、そうだった・・・」
「バーカ!本当は銀だよーだ!」
「あー!だましたな!」
結局、アスカは残り20分の昼休みを碇と話して過ごした




その次の日からだった
アスカは毎日、昼休みになると碇のいる屋上にいった
だから、二人の仲はあっという間に近づいていった
アスカは、碇のことをシンジまたはバカシンジと
シンジも、惣流さんからアスカへ、変わっていった
さらに数週間たつと、二人は一緒に屋上で弁当を広げるようになった




そんな、ある日だった





「シンジ、おまたせ!」
普段通り、お昼休みにアスカはシンジのいる屋上にいった
もちろん、そこにシンジはいた
「じゃ、食べよっか」
すでに、第三者から見れば、ただのカップル
だが、屋上には基本的に他には誰もいない、だから変な噂はまだたっていない

食事開始から15分経過・・・

カラン

「あ、」
シンジは箸を落としてしまった
「あーあ、ほら早く・・・」
洗ってきなさいよ、とアスカは言いかけたが、とても面白いことを思いついた
今、屋上で二人っきり、相手が箸を落とした、しかも相手の弁当の残りは・・・卵焼き一つ
アスカは チャーンス とばかりに、にやりと笑いシンジの卵焼きをつかむと
「シーンジ、あーん♪」
はい、例のあれです
「へ?」
「あーん♪」
アスカはシンジをじっと見つめる
「い、いや・・」
「あーん♪」
今度は上目遣い
「ち、ちょっと、ア、アスカ・・」
「・・・」
今度はほおを膨らませて、無言で卵焼きを差し出す
「あ、洗ってくるね、箸を!」
逃げようとするシンジを逃がさんとばかりに、アスカはシンジの手を握って指を絡ませた
すでに二人とも顔がまっかっかである
「シ、シンジ・・・あーん」
アスカは、こんなに恥ずかしい状態になるとは思ってもいなかった
もっとも、シンジはもっと困惑していた・・・が、

パクッ

シンジは意を決して差し出された卵焼きを食べた
「シ、シンジ・・・」
「えっと・・・ご、ごちそう・・・さまでした・・・」
「うん・・・」
「・・・」
「・・・あ、あのさ、アスカ・・・」
「う、うん・・・何?」
「手・・・」
「手?」
あっとアスカは思った
ずっとつなぎっぱなしである
「ご、ごめん・・・?」
アスカは手を離そうとしたが・・・アスカが握っていたのにいつの間にかシンジに握られていた
「シ、シンジ?」
「ダ、ダメ・・・かな?」
アスカは何て答えればよいのかわからず、そのまま昼休みを過ごしていった
この後に起こる騒動など想像だにせずに・・・






その騒動は、放課後、ヒカリからもたらされた
「ねぇ、アスカいつからなの?」
「?何が?」
「何がって、もぉ・・・しらを切るつもりなの?」
ヒカリは目を輝かして聞いてきた
「碇君と付き合ってるんでしょ?」
「あ、あたしが!?」
「それ以外いるわけないでしょ?もう学年で噂になってるわよ」
「い、いつからその噂が流れてるの?」
「今日よ、今日。待って・・・いつからってことは・・・そんなに昔から付き合ってたの?」
「ち、ちがうわよ!」
「そーなのー?碇君のことが好きなんじゃないの?惣・流・さ・ん」
いつの間にか、ヒカリだけではなく5、6人の女子も集まっていた

「あ、あたしはシンジなんか・・・シンジなんか好きじゃないわよ!!!!」
ホントについだった、ものすごい大声を上げてしまった
「ちょっ・・・聞こえちゃうよ?碇君に・・・あっ」
ヒカリが指差した先には・・・教室の扉、いやシンジがいた
シンジは、扉からすっと消えた
「ちょ、アスカ・・・いい・・・の?」
アスカはもうすでに扉にいた
「シンジ!」
と大きく叫んで、
シンジを追いかけていった


荷物を学校におきっぱなしのまま、アスカは学校を出た
色んな人にアスカはシンジの家を聞いた
「はぁ、はぁ・・・ダメか・・」
自分で犯してしまったことの重大さに今更気づいた
シンジのことが好き・・・実はこのことには二週間前に気づいていた





二週間前・・・
「でね、ママ。そしたらシンジがね」
今、母との夕食の途中である
「ねぇ、アスカ」
「なぁに?」
「そろそろ話してちょうだい」
「何を?」
アスカの母、キョウコはにやにやしながら聞いた
「一体シンジくんとはどのくらい進んでいるの?」
「へ?」
アスカは聞かれた内容が理解できなかった
「アスカはシンジ君のことが好きなんでしょ?」
「好きなわけないでしょ!」
「そーなの?この頃毎日帰ってきたらシンジ、シンジって」
「そ、そんなことないわよ!」
「あらあら、ごめんね・・勘違いしちゃった」
いきなり言われたのでアスカは驚いた
「ほんと、絶対そんなこと・・・」
「シンジくんのこと好きなんじゃなくて、大好きなのね♪そーかそーか・・・」
「ち、ちがーう!」

しばらくアスカは、母と勝てるわけのない戦いを繰り広げていた

「アスカ・・・」
「・・・何よ」
少しアスカはふて腐れてた
「本当はどうなの?」
「・・・好き・・・かもしれない」
それを聞いたキョウコはふふっと笑って
「何でかもしれないなの?そんなに相手のことを知っているのに?」
「・・・」
「負けちゃダメよ」
「・・・誰に?」
「"自分"によ。」
キョウコはそう言うと席を立って台所に行った
「ねぇママ」
「何?」
「あたし、シンジのこと・・・好きなのかな?」
キョウコはアスカの顔を見ると・・・真剣そのものだった
「さぁ、ね。でも見た限りでは好き好き!って感じよ」
「わかった・・・ありがとっ!ママ、おやすみ!」
やれやれ、恋する乙女は大変ね、とキョウコは思っていると

  私は、シンジが大好きだー!!!!

と二階のベランダから聞こえてきて、くすくすと笑っていた








「あら、アスカちゃんじゃない!」
昔のことを思い出していたアスカは、突然話しかけられて驚いた
目の前には、見たことのないおばさん・・・いやお姉さん・・・がいた
「誰?・・・あっ、それよりも中性そうで・・・えっと、おとなしそうで・・・や、やさしそうな男の子見ませんでしたか?」
アスカは必死に聞いたが、相手がくすくす笑っていたので少しいらっとした
「・・・すみません、邪魔しました」
と、アスカは別の人に聞こうとしたが
「まぁ、待ちなさい。その子ならあっちの公園にいたわよ」
「ほ、本当ですか!?」
さっきの怒りはどこへやら、希望に満ちた顔で聞き返した
「ふふっ、そんなことで嘘つかないわよ。ほらほら早く行きなさい」
「ありがとうございます!!」
そう言うと、アスカは走っていった
「んー、昔から変わらないわねアスカちゃんは・・・ま、シンジも変わってないか」
残ったその人はぼんやりと呟いた







「いたっ!!シンジ!!」
アスカはシンジを公園で見つけた
シンジはアスカに声をかけられてびくっ震えた
「アスカ・・・」
その目は、明らかに涙した後の目だった
(この目・・・どっかで・・・)
と思っていると、シンジが話しかけてきた
「アスカ、あれって本当なの?」
言いたいことは・・・痛いくらいまでにわかった
「・・・嘘に決まってんでしょ」
シンジの顔に少し光が差したが、まだ曇りがあった
アスカは意を決した
「シンジ!!あたしは、あたしはシンジのこと・・・」




fin・・・?



☆あとがき・・・・・のようなもの

どうも、メラミです
最後まで読んでいただきありがとうございます!
後編がつめこみぎみなのはすみません・・・うまく書けなくって(泣)  

補完編もよろしくお願いします




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