薄れ行く意識の中で、僕はぼんやりと思い出していた。

 そう。あれは確か……アスカがまだ日本に来たばかりの頃。戦闘待機という理由で沖縄の修学旅行に行かれなかったあの日。

 一度だけ。たった一度だけ、僕たちが3人で出かけたことがあったんだ。

 あんなに穏やかな時間は、後にも先にもあれきりだった気がする。本当に短い時間だったけど、僕にはとても幸せな記憶として残っているんだ。

 もしも過去に戻れるなら。

 昔だったら、僕は母さんのいる子供のころに戻りたいと願っただろう。
 でも今は違う。今は、あの短くも温かい記憶の場所に戻りたいと願う。一瞬でもいいんだ。アスカと綾波の笑顔を見ることのできた、あの日のあの時間に。


 少しだけ目を開けて、空を見る。わざわざ顔を上げなくても、砂の上に横たわっている僕にはそれだけで十分だった。

 星の瞬く漆黒の空を横断するように、一筋の赤い影が走っている。僕はその赤い影を右から左に目で追い、そのまま顔を左側に向ける。
 そこには全身を痛々しい傷で覆われたアスカがいた。僕の隣りで大きく目を見開いたまま、アスカはピクリとも動かない。

 無造作に放り出されているアスカの右の手の平に、僕は左手でそっと触れる。薄いガラスに触れるように。柔らかい真綿に触れるように。そっと、そっと。

 それでもアスカは微動だにしなかった。僕の手を払いのけることもなく、僕を睨みつけることも、それどころか僕に視線を向けることさえしない。
 時が止まっているかのように、ただただ空を見つめている。

 僕はそんなアスカの右手を取ると、静かにしかし力強く握りしめた。



***



「一日だけ休暇をあげるわ。気分転換にお出かけしてらっしゃい」

 夕食時、ミサトさんはビールの缶を持ったままダイニングのイスに大きくもたれて、そして僕ら二人を交互に見遣った。

「ホント? じゃあ、アタシは加持さんとデートしようっと」

「あら、それは残念ねぇ。その日の過ごし方はもう決まってるのよ」

「何よそれ。そんなの休暇とは言えないじゃない」

 パシッとテーブルに箸を叩きつけ、アスカはミサトさんに猛然と抗議をした。
 しかしながらミサトさんはアスカのそんな抗議も予想済みだったのだろう。特に驚いた様子も見せず、何食わぬ顔で手に持ったビールに口を付ける。

「訓練じゃないんだから、休暇と同じようなものよ」

 時間が自由に使えない時点で休暇ではないと思うのだけど、僕にはそんなことどちらでも良かったし、正直言うと決められたことをやる方が楽だったから反論はしなかった。
 でもそんな様子がアスカの怒りには”火に油”だったみたいで、アスカはみるみる間に顔を赤くさせて、怒りの矛先を今度は僕に向けてきた。

「アンタも何か言いなさいよっ。ミサトに好き勝手言われて黙ってるなんて、ホント男らしくないんだからっ」

 本当に僕はどちらでも良かったから、こうやってアスカに責められるのは迷惑な話だ。でもこの状況に長居したくない僕は、仕方なく口を開く。

「あの、その日は何をすればいいんですか?」

「ん? それはね」

 想像通りの物分かりの良い返答をする僕に向かって、ミサトさんはしたり顔で軽く身を乗り出した。

「ちょっと待ちなさいよっ」

 アスカは僕を一睨みしてからミサトさんの言葉を遮る。

「アンタばかぁ? ミサトにいいように丸め込まれてるんじゃないわよ。自分の意思はないわけ?」

「僕は別に」

「あーっ、もうこれだから日本人は!」

 髪の毛を掻きむしらんばかりの勢いのアスカを尻目に、ミサトさんはしらっとした顔で話しを続けた。

「その日はアスカとシンジ君とレイで一日過ごしてもらうわ」

「何を」

 するんですか? と聞こうとした僕を全く無視して、アスカがまた横槍を入れる。

「冗談じゃないわよっ。何でアタシがバカシンジと一緒に一日過ごさなくちゃいけないのよっ」

「あら? アスカにはそう聞こえた?」

「何言ってるのよ。自分がシンジと二人で一日過ごせって言ったんじゃない!」

「アスカにはそう聞こえたのね」

 何がおかしいのかわからないけど、ミサトさんはクスクスと小さく肩を揺らしている。

「アンタ馬鹿にしてるの? いい加減にしないと本気で怒るわよ」

 もう怒ってるじゃないか。
 喉まで出かかった言葉を僕は無理矢理飲み込んだ。

「アスカ、いくらシンちゃんと一緒に過ごすのが嬉しいからって、少しは落ち着いて人の話しを聞きなさい」

 ミサトさんはアスカをからかうようにニヤニヤ笑っている。その上、アスカが怒りそうなことをわざと言ったりして。
 この人の性格は未だによくわからない。

「ミサト!!」

 ほら、怒らせた。

「ユニゾンの練習で二人が仲良くなったのは知ってるけど、レイを忘れたら可哀相じゃない。私はアスカとシンジ君と"レイ"でって言ったのよ」

「えっ?」

 えっ?
 アスカと一緒に、僕も心の中で思わず聞き返してしまった。だからミサトさん、さっきからニヤニヤしてからかってたんだ。

 僕の言い間違いじゃないのに、勝手に顔がカーッて、どんどん顔が熱くなってくる。
 なんだよ。アスカがヘンな言い間違いするから、僕まで恥ずかしくなっちゃったじゃないか。もう、なんだよ。

 考えれば考えるほど熱くなってくる顔を隠すように僕は深く俯いて、でも何事もなかったようにご飯を口に放り込んだ。

 味のわからないご飯を噛みしめながら、少しだけ顔を上げて斜め向かいのアスカを盗み見る。アスカは箸をたたき付けた格好のまま固まっていた。

「わかってもらえたかしら?」

 ミサトさんは笑いを堪えるのに精一杯といった顔をしながら、わざとらしく丁寧に問い掛ける。

「そ、そ、そ、そんなのわかってるわよっ。いいわよ。一日くらいファーストとバカシンジと一緒にいてあげるわよ。簡単なことじゃない。一緒にいればいいのよね。ただそれだけじゃない。わかったわよ。ミサトの言う通りにするわよっ」

 アスカはひどくアタフタした様子で畳み掛けるようにそれだけ言うと、ものすごい勢いでグラスを掴み中のお茶を一気に飲み干した。

 それがアスカの精一杯の強気な敗北宣言だった。



***


 あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる。太陽はいつにも増して力強い光りを放ち、空気さえも眩しく見えるほどに容赦なく僕たちに照り付けていたんだ。


 結局僕たちはミサトさんの思惑通り、3人で一日を過ごすことになった。でもやはりというか何というか、休暇と呼ぶには程遠い。要するに"お使い"だ。

 行き先は新横須賀。アスカと初めて出会ったあの太平洋艦隊を有する国連軍の基地がある。

 あのとき僕たち、否、アスカが空母や戦艦の上で暴れたせいで、その後の始末にいろいろ手間がかかっているのだそうだ。
 怒り心頭の軍はミサトさんを書類提出のためだけに呼び出したらしいのだけど、そんなことにミサトさんが従うはずもなく、でも誰かが行かなくてはならないという理由で僕たちが選ばれたのだという。

 いくらネルフを敵視している軍と言えども、目の前で使徒を倒して見せたパイロット本人がやって来れば、難癖付けずに黙って書類を受け取るだろうという魂胆らしい。

 この場合僕とアスカの二人が行けば済む話なのだと思うけど、何故か綾波も一緒に行かされる羽目になった。「和を以って尊しとなす」なんだとか。ミサトさん風に言うと「いい加減にみんな仲良くなんなさい」ってところじゃないかな。

 確かに僕たち3人には、お互いがお互いを遠ざけているような、そんな微妙な距離感がある。特にアスカは一方的に綾波に対してライバル意識を持っているみたいで、ミサトさんはそれをひどく気にしていた。

 僕もなんとなく感じていたことなんだけど、この先使徒はどんどん強さを増していくのだろう。そんな大きな敵に立ち向かうためには、おそらく僕たち3人が力を合わせなくちゃならないんだ、きっと。
 だからミサトさんは僕たちを少しでも仲良くさせたくて、こんなことを仕組んだにちがいない。

 でも本当のところは僕たちにはわからないし、例えわかったところで仲良くなれるわけでもなかった。

 案の定、この一日も、ただただ淡々と過ぎてゆく。綾波はどう思っているのかわからないけど、あのアスカでさえ無難にこの日を過ごそうとしているのがわかって、なんだかおかしい。

 第三新東京市から新横須賀までは電車でおよそ30分。特に複雑な乗り換えもなく新横須賀駅に着くと迎えの車が来ていたから、僕たちの任務は思いのほかあっさりと終わってしまった。

 軍指令本部の玄関に立ち、僕は空を仰ぎ見る。いつも見ている空よりも、明るくて青色が濃い気がするのは気のせいか。

「帰りの電車が来るまでまだ少しあるわね」

 アスカは自分の左腕に付けた時計を見てから、文字盤をトントンと指で叩いて見せる。
 アスカの言う通り今すぐに車で駅まで送ってもらっても、ちょうどタイミングが悪く少し待つことになりそうだった。

「ねぇ、駅まで歩いて行こうよ」

「駅まで?」

 思いがけない僕の提案に、アスカが首を傾げた。

 新横須賀に一歩降り立った時、僕は不思議な印象を受けた。何かが違うのだ。第三新東京市では感じることのできない何か。

 香りだ。いつもは感じることのない、潮の香り。大きく息を吸い込むと、体中が青い海で満たされるようなそんな気分になる。

 前回来たときは、全然気づかなかった。あの時はトウジもケンスケも一緒で少し浮かれていたし、次から次へといろいろなことが起きてなんだか慌ただしかったから、そんなことを感じる余裕がなかったのかもしれない。

「そうね。電車を待つのも退屈だし。いいわ、歩きましょ」

 アスカも同じことを考えていたのか。珍しく反論もせずに僕の意見を聞き入れ、それどころか僕たちの返事も待たずにクルッと踵を返して歩き出した。

「あ、アスカちょっと待ってよ」

 僕は慌てて振り返り、綾波の姿を探す。僕たちから少し離れた場所に立っていた綾波に今の話しは聞こえていただろうか。

「あの、綾波」

 綾波を呼ぶとき、なぜか僕はいつも少し遠慮がちになってしまう。

「あの、アスカと駅まで歩こうかって話してたんだけど」

 綾波に向かって歩きながら話しかけた。

「綾波に聞かないで勝手に決めちゃてごめん。でもアスカがもう歩いて行っちゃたし、いいかな」

 綾波はアスカの後ろ姿を少し見つめてから、僕に向かって頷いた。

「二人がそうしたいなら、私はいい」

「ありがとう」

 僕は急いで送迎用に用意された車に駆け寄って、帰りは歩いて帰ることを伝えた。簡単な道順を聞いてから綾波の元に戻ると、すでにアスカの姿は見えなくなっている。
 道も知らないくせに。
 僕は綾波を促すと、少しだけ早足で歩き出した。



***



 駅までは徒歩で約20分くらい、ほぼ一本道らしい。ただこれは地元の人が使う近道で、車が通れるようないわゆる道路ではない。
 脇道に反れない限り迷うことはないけど、アスカ大丈夫かな。

 早足でアスカの後を追っているのに、アスカの姿はなかなか見えてこない。
 アスカを気にしつつ、でも僕は景色を眺める余裕も持ち合わせていた。

 軍指令本部の建物は少し高台にあるから、駅までは緩やかな下り坂だ。海に反射する太陽の光を眩しく感じ、そして心地好い潮の香りを感じることのできる気持ちの良い道のりだった。

 小道を歩く。綾波も僕も言葉は交わさないけれど、決して居心地は悪くない。

 どれくらい歩いたのだろうか? 急に目の前が拓けた。どうやら広場のようだった。

「わぁ」

 僕は思わずつぶやいた。
 広場一面に色とりどりの花が植えられている。綺麗に色分けされたそれはまさに絨毯のようで、その迫力に圧倒された僕の足は自然に歩みを止めていた。

 ふと綾波に目を向けると、綾波も同じように一面の花の絨毯に目を奪われているようだった。僕と同じで、きっとこんな景色を見るのは初めてなんだろう。普通の女の子らしい反応に、僕はなんだか少しだけホッとする。

 それにしてもアスカはどこに行ったんだろう? この一面の花には目もくれず、もう先に行ってしまったのだろうか。

 アスカのことだから「はぁ? アンタ何言ってんの? アタシがたかが花くらいで喜ぶように見える?」なんて言うかもしれない。
 アスカはきっと花なんかに興味ないんだろうな。

 花に目を奪われながら、僕はそんなことを考えていた。自分で自分の考えたことがおかしくて、僕はフッと小さく笑ってしまう。
 そんな僕に気づいた綾波が、怪訝そうな顔をして僕を見ていた。

「あ、何でもないよ。何でもない」

 僕は大きく手を振って自分の行動を正当化した後、綾波を促して再び歩き出した。

 花畑はまだ続いている。この大きな広場を横切るのが、駅までの近道らしい。

 初めは赤や黄色や白などの花が多かったが、その先は青色の花が集められている。一口に青と言っても花の種類によってその色も様々で、それらがグラデーションのように規則正しく並んでいた。

 その青い花の中に、一際目を引く花があった。
 少し紫がかった青色で、開いた花びらは星のような形をしている。小さい花なのに、とても凛として咲いているのだ。

 僕はその花の前で足を止めた。近づいて見ると、それは草花に詳しくない僕でも知っている花。"桔梗"だった。

 桔梗の凛とした様に、なぜかとても惹かれる。何かに似ている。どこかで見たような。

「碇君」

 急にしゃがみこんだことに驚いたらしい綾波に呼ばれて、僕は振り返った。

 あぁ、そうか。この花、どこかで見たことがあると思ったけど、そうだったのか。

「綾波って、この花に似てるね。桔梗っていうんだよね?」

「え?」

 唐突な僕の発言に、綾波は意味がわからないという顔をして見せた。当たり前か。僕は慌てて付け加える。

「イメージが似てるっていうか」

 綾波はますます怪訝な顔をして首を傾げる。

「その、なんて言うか。ほら、控えめな感じなのに凛としているっていうか、えっと、髪の毛の色っていうか」

 的を得ない説明しかできない自分がもどかしい。上手く言葉にできないけど、確かに似ている気がするんだ。なんて言ったらいいんだろう。

 スッと綾波が僕の横にしゃがんで、花に手を伸ばした。何も言わず、ジッと見つめている。

「綾波もそう思わない?」

「わからない。わからないけど」

 綾波は花に手を添えたまま、静かに答えた。

「少しだけうれしい気がする」

「うん」

 綾波の言葉にうれしくなった僕は、下を向いて小さく微笑んだ。

 プチッ

 え? えぇぇぇーーー!!

「だ、ダメだよ、綾波っ。花を折ったらダメだよっ」

 僕は慌てて周りをキョロキョロ見回して誰もいないことを確認すると、僕はようやく落ちついて綾波の手元に目を向けた。
 小さな花を2つ付けた桔梗の茎を手にしたまま、綾波は僕の慌てぶりにひどく驚いた顔をしている。

「ここの花は誰かが管理してる花だから、野生の花じゃないから勝手に折ったらダメだよ」

「でも私と似てるから」

 僕はもう一度辺りを見回して誰もいないことを確認する。
 大丈夫だよね? 1本だけもらっても、いいよね?

「今回だけ」

 ゆっくりと立ち上がり、そっとささやく。

「今回だけ、その花、特別にもらって帰ろう」

 僕に促されて綾波も静かに立ち上がった。花を手にした綾波の横顔は、少しだけ微笑んでいるように見えた。

 そして僕らは再び歩き出す。さっきと変わらず特に会話はないけど、でもとても穏やかな時間だった。


 ようやく前方に出口が見えてきた。色とりどりの花に気を取られていたからあまり感じなかったけど、けっこう広い公園みたいだ。
 出口が近くなっても花が絶えることはなく、いつの間にかそれは僕たちの背丈ほどあるたくさんのヒマワリに変わっていた。

 いつも太陽を向いて光をいっぱいに浴びているヒワマリは、とても強い花なのだと思う。力強くスクッと立ち、私を見てとばかりに目一杯に花を広げる。その確固たる自信で周りの空気まで明るくするんだから。
 時には太陽に背を向けてみたくはならないのかな。

 僕はなんだか少しだけヒワマリの花がうらやましくなった。僕にはヒワマリのような生き方は到底できそうにない。僕は胸を張って太陽の光を全身で受け止めるより、日陰で目立たずひっそりとしている方がいいから。

 ヒワマリの勢いに少々圧倒されながら、広場を去ろうとしたそのときだった。

「弍号機パイロット」

「えっ?」 

「あそこにいるのは弍号機パイロット」

 綾波の言葉に振り向くと、出口より少し手前の小道にアスカが立っていた。自分の背丈より大きなヒマワリを見上げ、ジッと見つめている。
 僕たちには全く気づいていないのか、アスカは少しも動かない。

「アスカ!」

 アスカがゆっくりと振り向いた。

「アスカ、こっちだよ」

 僕はただ出口を指差して行き先を教えたかっただけなのに、花を眺めていたのを邪魔されたから怒ったのかな。

「そんなのわかってるわよっ」

 アスカは明らかにムッとした顔で、僕らに向かってズンズン歩いてきた。

 怒られる!

 反射的にそう感じた僕は思わず身構えたのだけど、アスカはそんな僕を無視するように綾波の前で立ち止まった。

 アスカが綾波の顔をじっと見つめている。いや、見つめているというよりは睨んでいるのか。
 その緊張感に、わずか数秒であるはずの時間が僕にはとても長く感じられる。

 表情は険しいまま、いつの間にかアスカの視線は綾波の手元に向けられていた。小さな桔梗の花を握りしめる綾波の手に。

 アスカは顔を上げ、再び綾波の顔を見据える。

「何よ、これ?」

「桔梗」

「そんなの見ればわかるわよ。なんで花なんか持ってるのよ」

「一本だけもらったの」

 アスカの棘のある言葉にも綾波は少しも怯まず、ただ淡々と答える。

「アンタまさか公園の花折ってきたの?」

「私に似ているから」

「はぁ?」

「碇君が、私に似てるって言うから」

「シンジが?」

 明らかにイライラした顔で、アスカが鋭い視線を僕に向けた。
 
「アンタに似てるって言ったの?」

「そう」

「この花とアンタが?」

「そう」

 アスカがまた僕を睨みつけた。それは怒ってるというより、馬鹿にした顔で。軽蔑する様な目つきで。

「アタシがいないからって、二人で仲良くやってたってワケね」

 フンッと鼻で笑うと「ばっかみたい」、そう小さくつぶやいてまたズンズンと歩き出した。

 僕は慌てて後を追ったけど、アスカの背中が「ついて来るな」と言っているような気がして、アスカに声をかけることができなかった。

 花を眺めるのを邪魔されたからってそんなに怒ることないじゃないか、と心の中で文句を言ってみるものの、実際にそれを口に出して言う勇気はない。
 僕らは気まずい雰囲気のまま同じ電車に乗り、同じ駅に降り立つハメになった。




続く...







目次     ホーム     次話