あなただけを見つめる    written by 能登殿様


「アンタが全部アタシのものにならないんならアタシ何もいらない。」

あの日からもう8年も過ぎた。私が過ごした永遠の夏は終わり、虹を越えてたどり着いた国を後にした。生も死も等価値だった緋い海は混沌と奇跡が等価値の碧い海へと再生した。人は人のまま傷つけ癒し生きて死んでいる。

「あれ?ヒカリからメールが来てる。久しぶりね何かあったのかしら?」
サードインパクトから2年で帰国した私だったが当時の友人と連絡も取っているし2回程日本へも行った。
『アスカ久しぶり!今度私ドイツに行こうと思ってるの。お休みの日って向こう2週間である?返信待ってるわ!』

「こっち来るんだヒカリ…。あの馬鹿上司に交渉ね!『交渉してみるわ。久しぶりにヒカリと話すの楽しみにしてる!後お土産にラーメンよろしく!』送信っと!」
仕事の疲れもあったけど久しぶりに親友に会えると思うと自然と表情も綻ぶ。久しぶりにワクワクした気持ちで私は眠りに就いた。

翌朝寝ぼけ眼を摩りながら出勤する。ネルフに関わるのは真っ平だった私は民間の会社に就職した。ネルフドイツはギャーギャー言ってたけど新本部司令の一喝でおとなしくなったわ。鬼の作戦部長は伊達じゃなかったわけだ。ミサトのおかげで私やほかのチルドレンの自由度は随分上がったわ。厳密には本部付けの予備役扱いだけど。

「ラングレー飛行士、今日は1時と4時に予約が入っている。」
「人数とコースは?」
「1時の客がアクロバット次がベルリン周回、3人と8人だ。」
「りょーかい。」
私の仕事は観光向け民間航空会社のパイロットだ。ネルフで培ったもので人を喜ばせたかった。とくに私のアクロバット飛行は人気のコースで長期休暇のシーズンは予約でいっぱいになる。
「あ、社長!アタシ有給休暇取ってもよろしいでしょうか?日本から友人が来るんです。」
「あ、ああ、いいい、いいともいくらでもゆっくりしてくればいい。君はよくやってくれているから。」
こんなに簡単に許可が降りるとは少し拍子抜けだ。部下の要求など一度も聞いたこと等ないのに。少し様子がおかしい気もするが気が変わってしまっても困るので素直に礼を言っておいた。

『無事に休暇とれたわ!いつこっちに来るの?迎えに行くわ。』
『本当!よかったわアスカ!なら善は急げで明後日いいかしら!』
『随分急ね。でもわかったベルリン空港よね?』
『そう!後はアスカ思いっきりオシャレしてくるのよ!絶対後悔するから!いいわね!』

ふむ、オシャレをしてこいとな?私だって年頃の女性なのだから言われなくてもある程度の装いはすることぐらいヒカリだってわかってるはず。何かサプライズか?でもオシャレしなきゃダメなこと、もしくは人……。ヤダ!あいつな訳ないじゃない!馬鹿シンジとはなんでもないんだってば!ああもう顔が熱い!!

馬鹿シンジとの和解は周りが危惧していたよりもずっと簡単にいった。というよりも自分のためにご飯を作り続けてくれる人に対して怒りも憎しみも持続しなかったのだ。その後はわりと“良好な関係”を築けていたと思う。デートもどきも何度かした。ただ国際法や取引手続き上私の帰国は決定していたため、どうしてもお互いに最後の一歩を踏み込めなかった。
私が帰国してからは毎年私がバレンタインデーにチョコレートを贈りホワイトデーにシンジから白い薔薇の花束が届いた。それだけが私達を繋ぐ絆だった。それなのに今もこうして胸が熱くなる。シンジが来るかなんてわからないのに、アタシを待ってるかなんてわからないのに。アタシはこんなことを考えながらヒカリが来るのを待っていた。

私の予想というか期待というか願望は最悪の形で裏切られたらしい。ま、ヒカリの同伴だからありえないわけではなかったけれど、もしかしてシンジに会えるかもと本気で着飾って来たアタシが出迎えたのは――――
「しっかしドイツっちゅう国は寒いのう!」
「去年ようやく雪が戻って来た日本とは大違いだよ。この寒さはイヤーンな感じだな。」
「アスカ久しぶり元気だった!」
「ヒカリ…なんで2馬鹿なの?どうせなら3馬鹿とも連れて来なさいよ!」
「ま、まあまあアスカ。」
「やっぱり惣流はセンセに逢いたかったんかい。」
「な、あんな奴どうだっていいわよ!」
「まあ惣流せっかく迎えに来たんだからそう言うなって!」
「迎えに来た?」
「ほらアスカ行くわよ。」
「え、どこに?」
気付けば私はネルフの専用護衛機に乗せられドイツを出国していた。
「2時間程我慢してちょうだい。久しぶりね弐号機パイロット。」
「ファースト!?アンタこんなところでなにしてんの!?」
「見てわからない?操縦よ。」
「そんなの見りゃわかるわよ!」
「あなたを届けるのが私の役目。それが絆。」
「相変わらずアンタさっぱりわかんない奴ね!」
「弐号機パイロットうるさい。エンジン。フルスロットル。」




「アスカ、背ェ伸びたんじゃない?」
「ミ〜サ〜ト〜!アンタねぇファーストになんて操縦の仕方叩き込んだのよ!危うく死にかけたわ!」
「ノってくれたっていいじゃないアスカのいけず〜。それにアンタ現役のパイロットでしょ?鍛え込みが足らないわよ!いいからさっさといくわよ!」
「嫌せっかく生きて日本に着いたにアンタの運転で死にたくない!」
「黙って乗れェ!」
「死ぬのは嫌ァー!」



「久しぶりでしょここに来るの。」
「みんなしてどうしてアタシをジオフロントに連れて来たワケ?」
「行けばわかるわ。きっとあなたの望むものが待ってるわ。」
「何はともあれ進むしかないってワケね。」



私は瞬間息を呑んだ。扉を開けるとジオフロント一面に広がる黄金色の海。これは―
「向日葵よ。彼が全部一人で植えたんだから。こっから先は一人で行きなさい。」
私は向日葵の海を掻き分け進む。向日葵の暖かい香りが私を包む。そして見つけた。私に背を向け立っている一人の男。彼が振り返り私と向き合う。
「いきなりでびっくりさせちゃったかな?」
「アンタが無茶苦茶なのは昔からでしょ。」
「そうかも。」
「これだけの花どうやって集めたの?」
「種から植えたんだ。これが咲いたらアスカに伝えようと思って。」
「それでこんな誘拐みたいなこと?」
「いやあれはミサトさんが悪ノリしちゃって…」
「ま、いいわ話って?」
「そう言われると少し恥ずかしいんだけど。」
「本当にアンタヘタレね。」
「ねえアスカ向日葵の花言葉って何だか知っている?」
「いいえ知らないわ。」
「それはね『あなただけを見つめる』って言うんだ。」
「それって…」
「離れてみて本当にわかった。僕はアスカだから全てを捧げたいと思ったんだ。」
もう私は嬉しすぎてどうにかなりそうで、体中の感覚がシンジに向かっていて―
「結婚してほしい。」


向日葵の海の中で私たちは2度目のキスをした。




...fin



☆あとがき

向日葵さんお誕生日おめでとうございます!お世話になったご恩返しができたらと書かせていただきました。テーマはずばり『向日葵』お気に召しましたでしょうか?KOUでした。



☆向日葵談

わぁ、こんなステキな作品で、お誕生日をお祝いしてもらっちゃった♪嬉しいっ。
私の大好きな向日葵が、こんな形で二人の幸せに貢献できるとは!
幸せなお話で、胸がいっぱいになりました。
KOUさん、本当にありがとうございました。

向日葵の花言葉は「あなただけを見つめる」っていうんですね。
向日葵を名乗っておきながら、全然知りませんでした(汗

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